選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)は、2001年にFDA 510(k)および市販承認を取得して以来、緑内障患者さんの眼圧を安全かつ効果的に低下させる手段として用いられています。これまで多くの試験で、一次療法または補助療法としてのSLTのエビデンスが検討されており、高眼圧症および緑内障の眼圧を低下させる安全かつ効果的な方法として推奨されています(1) (2)。しかし、SLTを第一選択治療として用いた場合の診断補助としての有益性は、現在ようやく検討され始めたところです。
診断補助としてのSLT
Dr. Paul Singhは、テキサス州オースティンで開催された2017年のCombined Ophthalmic Symposiumで、SLTの診断的側面を強調しました。緑内障を管理するうえで線維柱帯形成術の役割はまだあるのかという質問に対して、Dr. Singhは、カスタマイズされた方法で緑内障患者さんを治療するのに、現在利用可能な選択肢は多数あることを強調しました。さらに、診療ではSLTによって流出抵抗がどこにあるのかをある程度知ることができるのではないかと、「SLTが有効である場合は、線維柱帯が主な抵抗領域である可能性があり、有効ではない場合は、シュレム管またはそれよりも遠位に抵抗領域があるということではないか」と自問していると述べました。 その見解によれば、抵抗がどこにあるのかについて術前に理解を深めるのに、SLTは有用であると考えられます。
Dr. Singhの見解を敷衍すると、緑内障を管理するうえで医師が直面する最大の課題の1つは、流出系内の閉塞部位を精確に特定することです。SLTは、色素沈着した線維柱帯細胞に選択的光熱融解を加えて、線維柱帯とシュレム管の内壁を通過する房水の循環を改善する蛋白質とサイトカインを放出することによって効果を発揮します。この作用機序によって、医師はその結果に基づいて病変部位を推定することができます。SLTが有効であれば、主な閉塞部位は線維柱帯内にあると推定できます。これとは対照的に、SLTが無効であった場合には、主な閉塞部位は線維柱帯の外側にあると考えられます。このことは患者さんの病態を理解するうえで有用であるだけでなく、今後の治療の有効性に関する重要な情報も得ることができます。たとえば、SLTによる治療が成功しない場合は、閉塞部位が線維柱帯の外側にある可能性が示唆されます。そのため、この患者さんには線維柱帯をバイパスしようとする治療は成功しない可能性があり、自然な流出経路をすべて開くABiCの方が優れた選択肢であると考えられます。簡単に言えば、SLTには緑内障を直接治療すると同時に、患者さんの病態を理解するうえで不可欠な情報を提供するという2つの役割があります。
SLTと薬物療法の比較
眼圧降下薬は、次第にその潜在的な危険性がよく把握されるようになったものの、緑内障の第一選択治療として一般に用いられています。このような点眼液を長期使用すると、QOLに重大な悪影響を及ぼすことが示されています(3) (4)。眼表面の病態は、防腐剤の塩化ベンザルコニウムのほか、このような薬剤によく含まれる他の有効成分と密接な関係があります(5)。点眼液には、灼熱感、ドライアイ、結膜充血、異物感、流涙などの厄介な局所副作用がつきものです。こうした愁訴は、時間の経過とともに頻度と強度を増すばかりです。(6)
以上の多数の問題を踏まえて、代替療法としてだけでなく、第一選択療法として、安全性および有効性の点でSLTを薬物療法と比較するとどうなるでしょうか。Nagarらは、前向き無作為化6ヵ月追跡試験で、POAGまたはOHTの40眼を対象にSLTとラタノプロストを比較評価しました。20%以上の眼圧下降を達成したのは、SLT群では75%であったのに対して、ラタノプロスト群では73%でした(7)。Alvaradoらは、SLTにはプロスタグランジン類似体とほぼ同じ眼圧下降効果があることを明らかにしています。POAGの24眼を対象としたこの試験では、SLTはベースラインから6.6 mmHg(29.9%)、プロスタグランジン類似体は5.58 mmHg(25.4%)眼圧を低下させました。(8).他の試験では、SLTが点眼液による服薬遵守と副作用の問題に対処できることや(9)、SLTの方が比較的費用効果が高いことが示されています。(10)
SLTと低侵襲緑内障手術との相乗作用
MIGS手技の前後にSLTを使用すると、多くの利点があります。さらに、SLTとABiC(ab interno管形成術)はいずれも本質的に修復性であることから、ABiCとの相乗作用があることは明らかです。前述のように、SLTによって線維柱帯が疾患の主な原因ではないことが明らかにされた場合は、線維柱帯のほかに集合管とシュレム管にも対処できることから、iTrackによるABiCを選択するのは理に適っています
結論
SLTと点眼液を比較した結果が極めて有望であり、MIGSを補完する可能性があることに加えて、診断補助としての2つの役割があることを踏まえれば、開放隅角緑内障患者さんを管理するために、これまでよりも早期に、かつ頻繁にSLTの検討を開始する必要があります。
REFERENCES
1. Meta-analysis of selective laser trabeculoplasty versus topical medication in the treatment of open-angle glaucoma. Li, X, Wang, W and Zhang, X. 2015, BMC Ophthalmol, pp. 1-9.
2. Systematic review and meta-analysis on the efficacy of selective laser trabeculoplasty in open-angle glaucoma. Wong, M O and Choy, B N. 2015, Surv Ophthalmol, pp. 36-50.
3. Glaucoma and quality of life. Freeman EE, Muñoz B, West SK, Jampel HD & Friedman DS. 2008, Ophthalmology, pp. 233-38.
4. Vision related quality of life and topical glaucoma treatment side effects. . Nordmann J-P, Auzanneau N, Ricard S & Berdeaux G. 2003, Health Qual Life Outcomes, p. 75.
5. Short-term effect of topical antiglaucoma medication on tear-film stability, tear secretion, and corneal sensitivity in healthy subjects. Terai N, Müller-Holz M, Spoerl E & Pillunat LE. 2011, Clin Ophthalmol, pp. 517-525.
6. Use of eyedrops in glaucoma: how can we help to reduce non-compliance? . Chawla A, McGalliard JN & Batterbury M. 2007, Acta Ophthalmol Scand , p. 464.
7. A randomised, prospective study comparing SLT with latanoprost for the control of intraocular pressure in ocular hypertension and open angle glaucoma. . Nagar, M., Ogunyomade, A., O’Brart, D. P., Howes, F., & Marshall, J. 2005, Br J Ophthalmo, pp. 1413-1417.
8. Similar effects of SLT and prostaglandin analogs on the permeability of cultured Schlemm canal cells. . Alvarado, J. A., Iguchi, R., Martinez, J., Trivedi, S., & Shifera, A. S. 2010, Am J Ophthalmol, pp. 254-264.
9. Selective laser trabeculoplasty as primary treatment for open-angle glaucoma. Kadasi LM, Wagdi S, Miller KV. 2013, R I Med J, pp. 22-5.
10. Selective laser trabeculoplasty: current perspectives. Leahy KE, White AJ. 2015, Clin Ophthalmol, pp. 833-41.
11. Microarchitecture of Schlemm Canal Before and After Selective Laser Trabeculoplasty in Enhanced Depth Imaging Optical Coherence Tomography. Skaat, A, et al. s.l. : J Glaucoma, 2017.